中村拓磨 のブログ

へぼパイロット奮闘記.いいね!いい人生だよ!

転職記録

転職して約7ヵ月が経った.

なぜかネットで調べると僕はJAXAに就職したり会社を設立したことになっているのだが,この春までの4年半はアマゾンのPrime Airというドローン開発のチームに所属していた.アマゾンで注文される荷物のうち,軽くて小さいものの多くをドローンを使って1時間以内に届けることを目標としているプロジェクトである.

入社した時は食堂にチーム全員が集まれるぐらいの規模だったが,出ていく頃にはオフィスは国内国外多々に広がり,人数は10倍以上の規模になった.プロジェクト初期の実働部隊として採用され,DJI以外まともに飛ぶドローンが社内にない状態からスタートしたが,退社するころには自社製のドローンで毎日配達を行える状態までたどり着いた.もしカルフォルニア州とテキサス州の該当エリアに住んでいる人たちがいれば是非試してほしい.プロセッサーの中では僕の書いたC++が今も元気で走ってるはずだ.かなりコアの部分を全面的に作ったので今後もしばらくは僕のコードがなくなることはないのではないかと思っている.

仕事内容はあまり書けないので公式から公開されている動画を観てもらいたい.

4mほどの高さから荷物を落とすこの方法は,段ボールが凹んだだけで苦情がくる日本では無理かもしれない.動画内で言われているように,障害物検知や回避,経路計算や目的地の変更なども含め全部自律している.僕はIMUを含む多くのセンサーを使って機体の位置や姿勢,環境データなどを計算する,俗にいうナビゲーションを担当するチームに所属していた.特にカメラとGPS (GNSS) 周りのアルゴリズムと数学が僕の担当であった.

2013年の終わりにアマゾンがドローンで配達を始めるというニュースを出した時は僕はまだ博士課程の学生だった.ドローンに関する研究室に所属していたので話題にはなったが,みんな冗談だと思っていたし僕も本気だとは思っていなかった.しばらくして,業界の有名研究者を召喚し,学会などでもPrime Airをみかけるようになって,これは本気なのかもなぁと思い始めた

卒業するころには,アマゾンが一番おもしろそうだなぁと思い,給料も悪くなかったし,シアトルは一度住んでみたい街だったのでアマゾンに就職することになったというわけだ.大学も大学院も第一希望のところには行けなかった僕にとって,アマゾンで働くことは人生の大きいイベントの中では初めての希望通りだったわけだが,まぁそれも「さくっと4年半で」そろそろ転職するかという気分になる.後半は転職時に考えたことを記録しておきたい.

転職する

先程「さくっと4年半で」と書いたが,テック業界で同じ会社に4年以上もいれば相当長い方である.なんとなく転職を考える時期ではあった.とはいえ,仕事は楽しかったし昇進したり昇給したりしていたので,絶対転職しなきゃいけないわけではないしなーっという感じだった.

きっかけは今年1月に業界で起きた大規模なレイオフである.上司,チームメイトを含む多くの同僚が会社から去っていった.

大規模にレイオフのあった会社というのは残った方もあまりおもしろくなくて,スケジュールが混乱し今日やった仕事が次の日にいらなくなったり,日々のオペレーションで忙殺され新しい数学やアルゴリズムを作る時間が無くなったり,担当者がいなくなり直すのに時間のかかるコードが増えたり,などなど.不満は膨らんでいった.

おっさんになると(転職時32歳)体だけでなく頭に脂肪がついてしまって,「それぐらいいいんじゃない?」の連続でのんびりしてしまう.仕事だけに限らず,日々の意思決定が変化のない方向へ流れがちになる.仕事を辞める理由がそれなりにあると自覚してるのに辞めなかったら今後もタイミングを失う,と思い辞めることにした.

転職してもナビゲーション技術の研究開発は続けたいと思った.ナビゲーションの技術は戦闘機,自律自動車,室内ロボットや携帯のアプリ (Google Mapとか)など色々応用されている技術だ.根幹の技術は基本的にアポロ宇宙船の時代から引き継がれている.もちろん用途によってセンサーのグレードは変わるし扱うアルゴリズムも変わるんだけど,それも含めて新しい経験かなと思い色々な分野でインタビューを受けていくつかオファーをもらった.ただ,そもそも飛ばないもののソフトウェアを作ることに今ほど真剣になれるのか?と考えて後半は航空分野の会社だけインタビューを受けることにした.

今の会社を選んだ理由は自分の作った数学やアルゴリズムを実機で試す環境があることだった.これは当たり前のように思えて,企業のR&Dやアカデミアでは意外とシミュレーション完結のケースも多い.アマゾンでも大学院や学部の研究でも,自分が一番楽しかったのは自分のコードで飛ぶときだよなぁと思い実機を飛ばせそうな今の会社に転職することにした.

転職に思う

人ってのは意外と簡単に自分が幸福なことを忘れてしまうのだろう.心理的な防衛本能として過去の辛い記憶を忘れるというが,目的は違えど幸福な記憶も人間は本能として忘れるのではないのかと思う.

数年前の自分からすれば前職の環境はこの上なく恵まれた環境だったはずだ.お金もビザの心配もせずにアメリカで自分の好きな分野の研究開発をする.しかも自分が入りたいと思って企業研究やコーディングインタビューの対策までして努力して入った会社.それが,ちょっと不満が増えたぐらいで簡単にやめてしまう.

そもそもそれ以前に,留学のチャンスがあったとか奨学金がもらえたとか博士号の取得とか,そこにたどり着くまでの僕はあり得ないぐらいラッキーと苦労の結果だったはずなんだけど,そんな過去の奇跡への感謝はほどほどにして日々の小さな不満を解消するために新しい場所へ行く.

どんな恵まれた毎日を生きていようが,人は同じ幸せをずっと噛み締めて生きることはできない.だから人類は成長するのだろう.辛い記憶も幸せな記憶も忘れるから人間は前に進める.だから僕の思考回路もいたって正常なんだろうな,とか考えたりした.

終わりに

転職してしばらく経ったが,結局転職はいいぞと言いたい.自分はどこへだって行けるし何にだってなれるっていう万能感が湧いてくる.何度だってやり直せるし永遠に成長できる.レッツ転職!

転職記録

One thought on “転職記録

  1. 数年ぶりに拝見したらブログ更新されていて嬉しいです。大学生時代(2014年〜2019年)は理系留学だったので博士課程の記事に励まされ、今回の記事の最後のガッツと温存された中二スピリットにまた励まされました。Xでも投稿されていますが、ブログは懐かしさが違いますね。ご栄転おめでとうございます、これからも応援しています。

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