中村拓磨 のブログ

へぼパイロット奮闘記.いいね!いい人生だよ!

空を飛ぶということ

ドイツに来てから一週間たった.毎日いろいろと発見があって全く退屈しない.まぁドイツについては今度まとめてってことで,今回はアメリカでパイロットになる方法について書こうと思う.

5月24日にパイロットになりました.

実技試験(check ride)の後に撮った写真

最終実技試験で教官が “Congratulation” と言った瞬間は忘れることがないだろう.多くのお金をかけ多くの時間を割き,アメリカでの最大の楽しみでもありながら,悩みの種でもあったフライトトレーニング.僕のアメリカ留学は飛行機の免許取得なしで語ることはできない.

今回は,「飛行機の免許ってどうやって取るの?」というネタで書こうかと.最後にこの経験を通して得た感動も書いたので,飛行機の免許自体に全く興味のない人も最終の章だけでも読んでもらえると嬉しい.

0.渡米前

まず僕の留学していたPurdue大学は敷地内にPurdue Airportと呼ばれる空港がある.

そしてPurdue大学にはAviationという専攻があってパイロットを大量に世に輩出している.おまけに天気はそこそこ良くてド田舎ってことでフライトトレーニングには中々イケてる場所.そこで「もしかしたら普通の学生も免許とれるんじゃないかなー?」って調べていると予想通りフライトスクールがあったわけだ.メールを送って色々質問して,飛行機の免許は

  • 大抵1年以内に取り終わる
  • 交換留学生でも取れる
  • なんとか払える金額

ってことが分かったので渡米前からアメリカで免許を取る気満々でいったわけだ.厳密にはAviation専攻の学生を教えている場所と,僕が免許を取った場所は違う.免許を取るだけなら,少々値は張るがパデューの学生でなくてもOkayだ.Lafayette Aviationで検索するとホームページがでる.ここは一般の人にもフライトスクールを提供している.

1.フライトトレーニング開始まで

免許取得を開始するまでにいくつかやらないといけないことがある.

  1. 登録
  2. 指紋
  3. 教習飛行機の決定
  4. メディカルチェック

1.フライトトレーニングの登録についてだが,まず,Transportation Security Administration (TSA) と呼ばれる政府系団体のAlien Flight Student Program というところで,IDを作って個人情報を全部送る.サイトはこちら.アメリカの永住権は持ってないけどライセンスほしい!って人はみんな提出しないといけない.これの登録に$135ほどかかる.僕の場合はなーんの問題もなく進んだが,アラブ系や中国人は9.11の後から審査が厳しくなったとか,なってないとか.

2.1の情報がTSAに届いたという確認メールが届くと,今度は指紋を送れと言ってくる.指紋は基本的にどこかの警察署に行ってとってもらう.幸いPurdueには敷地内に警察署があったのでそこで作ってもらった.指紋をとってもらうのはタダだったが,TSAに送る封筒が指定されていて,それに$40ほどかかった.

3. 飛行機の種類に関しては何を選んでも構わないが,まぁ利用可能な飛行機の中で一番安いもの,あるいは購入予定のもの,などで訓練するのが一般的だろう.トレーニングのたびに飛行機を変えることもできるが効率が悪いので免許取得までの時間は長くなる.僕はPPI (サイトはこちら) と呼ばれるパイロットサークルに所属していたので,サークルで所有しているPiper Warrior 2 という飛行機でトレーニングした.そうでない人はCessna 152/172 などが一般的だろうか.まぁどちらも小型のシングルエンジン,プロペラ機である.

4.メディカルチェックは別にトレーニングを始める前にはしなくてもよい.ソロ飛行を開始するまでに手に入れれば問題ないのだが,どうせメディカルチェックで引っかかったら免許取れないのだからトレーニングを始める前にとっておくのが妥当かと.とは言えどもたいていの人は大丈夫だ.必要なのはFAA Third Class Medical Certificateと呼ばれるものだが,とりあえず喘息持ちの,アレルギーありの,裸眼での視力0.4ぐらいの僕も大丈夫だった.矯正視力で1.0を越えていれば視力的には大丈夫なはず.Lafayette Aviationで教えてもらったお医者さんのところへ行って証書を発行してもらった.

これらを全部終えるのになんだかんだ1ヶ月ほどかかった.ログブックによると初飛行は9月18日だ.初めてPurdueの空港に行った日から1ヶ月と2日の計算になる.

2.実技

アメリカのどこで,どんな飛行機で免許をとろうとも,合格できる条件はアメリカ中で統一されている.詳しくはこちらに載っている.興味のある人は”Private Pilot For Airplane Single-Engine Land and Sea Practical Test Standards” (通称PTS)という本を買ってみるといいと思う.僕も教官に勧められて買ったが,最終試験に合格するための基準が全て載っている.

例えば,

「バンク角45度以上をキープしながら高度±100フィート以内で360度ターン」

「エンジンが故障した際の処置を的確に行える」

といった感じだ.免許取得までの最低飛行時間はソロで10時間,教官と30時間ということになっているが,だいたい操縦の方に慣れるのに時間がかかるのでソロで12時間,教官と45時間の57時間が平均的な値らしいということを教官に聞いた.僕も最終試験前のログが55.7時間だったので平均的なパイロットと言ったところか.(日本でも飛行機に乗っててたくせに平均の時間がかかったと考えるとへぼパイロットとも言えるが)

これらの全ての基準を満たす操縦ができるように訓練する.また,どんなに操縦がうまい人も,30時間の教官との飛行,3時間のInstrument flight,10回のNight Flightランディング&テイクオフ,ソロ飛行のうちの5時間はクロスカウントリー,などなどの最低限の飛行時間に関する条件もある.(詳しくは4章の図参照)飛行機の免許を取り終えるまでの時間は本当に個人差があって,早い人は40時間で終わらせるし,遅い人は80時間,あるいはそれ以上かかる.短期間で詰め込む方が効率よく進んでいくが,大抵の人が授業や仕事と併行して取るのでそうもいかない.ちなみに取り終わるまでの時間はソロ飛行にたどり着くまでの時間で90%決まる.ようは飛行機の操縦に慣れてしまえば,ルールに従って飛ぶだけのクロスカウントリーはさほど難しくないのだ.

3.筆記試験

筆記試験は2回ある.1度目はソロ飛行の開始前だ.操縦,離陸,着陸が1人で安全にできる,と教官が判断するとソロ飛行を開始する.ソロ飛行では教官が隣に座っていないのだから知識も身につけておかなきゃダメってことで

  • 離陸着陸のルール
  • 飛行機のパフォーマンスについて
  • 緊急事態のときの処置

などを筆記試験でチェックされる.ソロ飛行の前の筆記試験はそれぞれのスクールでルールが違うらしいが,purdueのLafayette Aviation では85%以上を取ることが要求された.選択問題,穴埋め,記述などで90分ほどのテストだった.僕は2問ミスったので92%だったが,普通,ソロ飛行するまでに自然と知識を蓄えていくので,この筆記に備えて5時間ほど勉強すれば通常は大丈夫だろう.そして,自分のログブックにendorsementをもらうとソロ飛行が可能になる.ログブックにendorsementが必要なのはアメリカ中で共通.

2度目の筆記試験は通常は卒業検定の直前だろう.とは言っても筆記試験は卒業検定の2週間(あいまい)以内であればいいので早めに受ける人もいる.このテストは全部で60問の2時間半だ.全て選択問題である.試験室は録音,録画が義務付けされていて,持ち物は全て預けなければいけない.貸してもらえるペン,計算用紙,フライトコンピュータ,電卓などで問題を解く.ちなみに出る問題は全て分かっている.というのも,GLEIMという問題集に載っている約1000問ほどの問題を解けば,本番はその中の60問が出る.とは言えども真面目に勉強して満点を狙いにいくと20時間ほど勉強する必要があるだろう.僕は大分サボったので一通り目を通して(2時間ぐらい?)挑んだら78%だった.合格は70%なので,あまり余裕はなかった(笑)ちなみにこの筆記試験のスコアがいいと,卒業検定での試験管の口答質問が少し簡単になるらしい.費用は$135.

4.卒業検定

卒業検定は2つのパートに分かれている.口答試験と実技試験だ.筆記試験を終え,必要な訓練を全て終え,かつ全ての操縦を基準以内で行えるようになると試験管の資格をもったパイロットをどこかから呼んで審査に来てもらう.約1時間の口答試験の後,okayがでれば一緒に飛んで全ての操縦を見せる.基準に収まるように操縦できると合格だ.試験には$300かかる.

以上がライセンスを取るまでの課程だ.まとめると下図のような感じ.

ライセンスに失効はないが,2年おきに更新しないといけない.実質2年でexpireだと思うのだが,なぜかexpireとはいわずに”current”でなくなる,と言う.だから2年経っても”Hey, I’m a pilot!” とはいえるのだ.このライセンス(private)があれば小型のエンジン一個のプロペラ機が乗れるようになる.もちろん友達も乗せられる.ちなみに僕と飛びたい人がいれば是非!男は割り勘,女の子はタダだ.

5.費用と用具

飛行機のライセンス取るのってむっちゃ高いんでしょう?と聞かれたことが多くある.まぁ超金かかる,ってのが普通の印象だと思うし僕もそうだと思っていた.なので何にどれだけ払ったかをリストにしてみた.

内容 費用($)
PPI Fee 135
Dual Flight 5418
Solo Flight 880
Ground Training 400
Cessna Pilot Center Kit 360
Aviation Headset 200
FAA Medical Exam 90
FAA Written Exam 135
Flight Examiner Fee 300
Textbook & supplies 150
合計 8068

合計$8068.当時は円高で1ドル78円だったので約62万9300円だ.まぁお高い買い物であることに間違いはないが飛行機のライセンスを取るほど時間が割けるのは今しかないと思ったので頂いた奨学金のほとんどを飛行機のライセンスに費やしたことは全く後悔していない.得たものも多いので奨学金としての本望も果たしたはず.ありがとう東北大学工学部,ありがとうJASSO.

確かに高いが,他の場所で免許取るよりも圧倒的に安い.「自家用機 ライセンス アメリカ」などで検索すれば分かると思うが通常のスクールなどに入ると120万ほどかかる.日本で取ろうと思うとさらに3倍ほどかかるらしい.僕が比較的に安く免許が取れたのはPPIの飛行機が借りられたからだ.上の表を見て分かるように,かかった料金のほとんどはFlightだ.ようするに飛行機のレンタル料金である.(Dualは教官のレンタル(?)代も含む)つまり安い飛行機を借りられるほど免許を取るのも圧倒的に安くなるというわけだ.

PPI Feeというのは僕が所属していたパイロットサークルPurdue Pilot Inc. のメンバーシップ料金である.初期登録が$35で各セメスター(半年)ごとに$50払う.ってことで$135って訳だ.

Cessna Pilot Center KitというのはPurdueで免許取る生徒ならたいてい購入するであろうパイロットに必要な一式がそろったキットである.なかなかイケてる皮のバックに「ログブック」,「フライトコンピュータ」,「パフォーマンスブック」などが入っている.ちなみにオンライン教材へのアクセス権ももらえる.これはなかなか綺麗にまとめられていて効率的な学習ができる.

Hedsetは買わなくてもPPIから借りることができたが,あまり質のいいものじゃなかったので自分のものを買った.ただえさえノンネイティブで英語がキツいのに,ノイズまで入りまくりでは無線会話は無理だーー!ってことで一番いいやつ買った.値は張るがその価値はあったはず.下の写真で僕がつけてるのがそれだ.「David Clark Headset」と検索すればでてくる.通販でも買えるはずだ.僕はLafayette Aviationで買ったので少し安かった.

あとはテキストを3冊ほど買った.1冊は最終試験内容の基準が全部載っているやつ,1冊は口頭試験対策,1冊は筆記試験対策だ.どれも買って後悔してないしこれからの復習にも役立つだろう.

ここまでがフライトトレーニングについて!メインタイトルにもなっている僕なりの「空を飛ぶということ」を最終章に書いてみた.

空を飛ぶということ

僕は日本に居たときにも人力飛行機を作って,それを操縦した経験があるので免許を取る前から”パイロット”だったのかもしれない.僕の中で人力飛行機っていうのは,飛行機というよりは浮いている自転車って感じだった.人力飛行機ってのはカラカラ,カラカラというギアの音が聞こえるだけでホント静かに飛ぶんだな.ロードレーサーのような完成度の高い自転車が,ほとんど摩擦音を出さずに進むような洗練された感じが好きだった.速度も7m/s (25km/h) ほどで自転車並みだ.しかも自分でワイヤー動かして操縦し,自分の足で漕いでプロペラを回すから本当に自分の力で飛んでいるような,そんな感じが最高に好きだった.

プロペラ機の免許を取って実機のパイロットになった今は,また違う感じだ.最大の感動は「飛行機はええぇ」ってことだ.自分で操縦していても,毎回「もう着いたの??」って感じだった.とはいっても小型プロペラ機の定常速度なんかしれていて,たかが104 knots, 約192km/hだ.まぁ速いっちゃ速いけど,車も頑張れば出せる.飛行機に乗っていて「はえー」って思うのは,邪魔するものが何もないから止まらないで済むということ,あと常に最短直線距離で進めるということ.ホント単純な話なんだけどこの2つは飛ぶまで感動が伝わらない.普段の僕たちの移動が,いかに色んなものに邪魔されているのかが分かる.

このフライトトレーニングで得たものは多い.航空宇宙工学を学ぶ人間として,自分の学んでいることが現場でどう使われているかを肌で感じれたのはこれからも生きてくるだろう.また,フライトトレーニングは英語の上達にも役立ったと思ってる.指示が聞き取れないと下手すれば犯罪者,あるいは事故,最悪死ぬ,みたいな環境で無線英語を使っていた訳で(笑)ほんと辛かったけど確実に生きてくる経験だと思うし,自分の専門を説明する上でも重要な英語を学んだと思う.あとは色んなことを同時に行う「マルチタスク力」みたいなのも着いたと思う.ほんと色んなものに同時に注意を払えるようになってなかなか感動している.エンジニアとして具体的にこれがどう生きるかはよく分からんが,なんかには使えるだろう.

とは言えど,やっぱりフライトトレーニングを通して得た最大のものは「飛行機はええぇ」なんだな(笑)ラファイエットからシカゴまでの距離が自分の頭が理解していた距離と違う.自分の体が理解していた距離と違う.車で行こうが飛行機で行こうが実際の距離なんて変わらないのに,まるでシカゴが近くに来てくれたようなそんな感じ.結局これが「世界が小さく感じる」一歩なのかと.そしてその一歩一歩の積み重ねが,いつか世界中自分の庭であるような,そんな感覚を持ってきてくれると考えるとなかなかワクワクする.この「実はもっと世界を小さく感じるかも??」というワクワク感が,免許とって良かったと思う一番の理由かな.空を飛ぶのはまだまだやめられそうにない.

僕のパイロットになるまでの日記はこんな感じか.皆も是非飛行機を運転してみて欲しい.たぶん,おもしろいことが起こる.

今日のドイツは雨.となりの女の子の濡れたブロンドヘアーが最高にセクシーだ.

空を飛ぶということ

13 thoughts on “空を飛ぶということ

  1. 鳥人間を見て、たくさんの勇気と感動を貰いました。
    いつか、僕を宇宙まで乗せてってください。
    どこまでも遠くへ行きましょう

  2. 古い記事にコメントしてすみません。実は僕もアメリカの大学に留学していて後々パイロットの免許をとろうと思っていたところなんです。実際のところは親父にアメリカ行くならパイロットライセンスくらい取って来いってことで受け身なんですが、この記事読んでとてもやる気が湧いてきました。たくまさんと比べたら学力も情熱も実績もまだまだですが、たくまさんを目標にしたいと思います。

    1. コメントありがとうございます.お父さんにも応援してもらってるならぜひ頑張ってパイロットになってください.辛いこともあると思いますが,得られるものは多いです.

  3. (上のミスったから消しといてw)

    飛行機のライセンス取りたい人が
    googleで検索したときにこのページが
    一番にでてきたらいいね。

    The last sentence reminds me of you!!
    今ロバートと二人で笑ってました。笑

    1. いいね、それ。ただ、Purdueで免許取る内容ばっかだから若干偏ってるけどね(笑)
      こっちの女の子はホントやばい。毎日幸せです♡
      そっちもロバートと仲良くやってくれい。

  4. このブログ読んでめっちゃ飛行機乗りたくなった!
    思ってたより免許とるん安いな!俺もとろかな笑
    自家用機買ったら絶対乗せてなー!
    タクマ君の近況読むと自分も頑張ろうって思えるからこれからも無理せず頑張って(^O^)

    1. ありがとうー!そう言ってもらえると書いた甲斐があるよ。
      自家用機買うのは大分先の話かな?でも一緒に飛ぶのはいつでも歓迎!だが男は割り勘だ(笑)
      これからもよく分からん近況報告をぼちぼち書いてくから読んでやってくれぃー

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